ジェノバとセフィロスとリユニオンに関する論理的考察


 FF7には解明さるるべき謎が数多く存在する。特にガスト=ファレミス博士が指揮をとり研究が進められていたジェノバプロジェクトは、物語の根底に流れるもっとも重要な前提条件であるにも関わらず、依然不明な点が多すぎる。
 物語を論理的に解釈するため、このジェノバプロジェクトに大きく関わる3つのキーワードについて、その相互の関わり及び作用を深く追求してみようと思う。
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 まず、そもそもの発端となる「ジェノバ」について述べる。
 「ジェノバ」とは、数千年前の地層から発掘された仮死状態の生物で、ガスト博士が命名したものである。彼は当初これを「古代種」であると認識していたわけであるが、実際それは間違いであり、真の古代種<セトラ>の言う「空から来た災厄」がその実体であった。
 ジェノバの特質は、・相手の記憶に応じてその姿、声を変化させること、・リユニオンを行うこと(この点に関しては後に詳しく触れる)などであり、数千年の昔この星に降り立ち、前者の能力を用いてセトラを絶滅の危機に追いやった招かれざる客であった。

 ではセフィロスについて述べたい。
 彼は、母親−ルクレッツィア−の胎内にいるときにジェノバ細胞を殖えられた存在、いわばジェノバプロジェクトの産物である。
 FF7の物語はクラウド達がセフィロスの野望を阻止するため彼を追い求めるというものであるが、やはり「セフィロス」は五年前のニブル魔晄炉に落下した際に死亡したものであると考えられる。
 そうすると本編中に現れ、クラウド達と相対し黒マテリアを欲したセフィロスはなんなのかということになるが、筆者は「各地に現れるセフィロス」はジェノバそのもの、あるいはジェノバ細胞を殖えられた者がその特性により姿を変えたものであると考えている。
 神羅ビルでプレジデントを殺したのは、同ビル研究室から失われたジェノバが「セフィロス」に姿を変えたものであり、それは後に運搬船でクラウド達によって倒されることになるから、その後は世界のどこかにいた「1」の入れ墨をほどこされた者(宝条の実験「セフィロス・コピー・インコンプリート」の被験者のひとり)が、彼の中に眠るジェノバによって「セフィロス」として目覚めさせられたのではないか、と筆者は思うのである。つまり「セフィロス」は時をおいて複数体存在したということになる。

 さて、先に「セフィロス・コピー・インコンプリート」という言葉が出てきたが、これについて説明しよう。
 「セフィロス・コピー・インコンプリート」(以下SCIと略すことにする)は、宝条がガスト博士の「ジェノバのリユニオン仮説」を実証するために行った実験である。「リユニオン仮説」とは、ジェノバは体をバラバラにされても一ヶ所に集まり再統合<re-union>するものであるという学説で、宝条はこの実験を”ジェノバエッセンスを最も濃く受け継ぐ”セフィロスの遺体を用いることにより行ったわけである。すなはち、本編中で体のどこかにナンバリングの入れ墨を持つ者12名及びザックスとクラウドの計14名が、SCIの被験者だったわけである。
 なお、このSCIを行う過程というのは「ソルジャー」を創り上げる行程(ジェノバ細胞投与と魔晄照射)と全く同一のものであり、魔晄中毒になり自己を失うか否かはその精神力によって影響される。

 なぜ、本物のセフィロスが五年前に死んだと言い切れるのか。
 本編中で宝条がそう言っていた、というのもあるが、大きな理由としては、「セフィロス」がリユニオンの最終地点、クレーターにいるということが挙げられる。あのセフィロスは下半身がなく、いかにも再構築中であるかのような形状の組織細胞が見受けられたことを記憶している。仮にセフィロスが五年前に死亡しておらず、本編中のセフィロスが本物の「セフィロス」であったとするならば、前述の一連の事実は不自然極まりないこととなる。それまでの旅でクラウド一行を惑わしてきたセフィロス自身が、先程まで通常の姿であったにもかかわらず魔晄の結晶の中で眠りについているというのはおかしい。やはり魔晄の結晶内部にいるセフィロスと、本編中で姿を現していた「セフィロス」とは、違う「物質」(もともとは同じであるが)でできたものと考えた方が妥当であろう。以上のことから、セフィロスは五年前に死亡したけれども、その肉体に宿る強靱な精神力と高密度のジェノバエッセンスにより、彼の生命エネルギーライフストリームの流れによって拡散されることなく(余談だが、ライフストリーム内部というのは臨死体験に類似した感覚及び知覚作用をもたらすと考えられる)一カ所に集まり、クレーターにてセフィロスの肉体を再構築していたということになる。

 しかしこの一連の行動は、すべてセフィロスのみの意志によるものと考えてよいのであろうか。筆者は否であると考える。むしろ、彼が彼の異邦者たる虚無の心、自分がこの世にあるべきではない存在であることを知り、途方に暮れた彼をジェノバが利用したのではないかと考えたい。
 ニブルヘイムの魔晄炉に落下し死亡したセフィロスは、その生命エネルギーをライフストリームの流れに委ねることとなるが、セフィロスの中に息づいていたジェノバ細胞が、彼の心――勘違いしていたとはいえ、虐げられた古代種(ジェノバ)のために人間に復讐したがっていたその強い思念──を利用して、彼の生命エネルギーの拡散を阻み、まずセフィロスの中のジェノバのみをリユニオン(再統合)させたのであろう。その地点が、星が深い傷を負う地、北の大空洞である。
 つまり、こういうことである。
 リユニオン第1段階として「セフィロスの中にあったジェノバ細胞のリユニオン」が起こり、それに5年かかった。(セフィロス死亡後、5年間何もリユニオンの兆候か見受けられなかったと宝条も言っている)何故セフィロスのみかというと、セフィロスという「一人の人間の精神力」を利用して「彼自身の精神エネルギー」を集めることで、実に効率よくジェノバがリユニオン出来るからである。
 そしてある程度ジェノバが集まってから、リユニオン第2段階として「セフィロス以外に殖えられていたジェノバ細胞たち(黒マントの人々)のリユニオン」が始まった。本体がある程度の大きさになったところで、呼び寄せる力も強まるというわけである。(とはいえ、その呼びかけも精神力の強いソルジャーにまでは届かないわけであるが)

 このように、「リユニオン」はすべてジェノバの思惑のもとに行われていると考えることができる事から、各地に現れるセフィロスは「セフィロスのかたちをしたジェノバ」にすぎず、よってセフィロスの意識はすでに無いということが出来るであろう。古代種の神殿で「これでひとつになれる・・・・」と言ったのは、それを求めるのが寄生生物たるジェノバの本質の所以であり、ところどころでクラウドの名を呼んだりしたのは、ジェノバがセフィロスの生命エネルギーの中に刷り込まれていた「記憶」を読みとったからと考えることもできる。また、クラウドを混乱させるような言動は、すべてジェノバが「メテオを呼びよせる為に」彼をも利用しようとした事によるのではなかろうか。セフィロスの記憶と、5年前の事実と、現実を見つめたくないクラウドの心理を整理・分析し、都合よく再構築したことによる、ジェノバのみごとな策略である。

 結局、メテオを呼ぼうとしたのはセフィロスの意志ではなく、ジェノバの本能によるのだと考えられる。セトラの生き残り、エアリスの母であるイファルナの話を聞く限り、ジェノバとは生命エネルギーを糧に生きる生命体であるといえる。メテオにより、星が傷つく。修復のために、膨大な量の生命エネルギーがそこに集まる。それを手に入れるためにジェノバはリユニオンして星に寄生する、つまりひとつになるのである。
 要するに、ジェノバもまた「悪」なのではなく、生きてゆくための食料を手に入れるいう、生物なら当たり前のことをしているにすぎないのである。
 また余談であるが、ジェノバはクラウド達の住む星に降りたものだけではなく、まだまだいくつか宇宙を彷徨っているのではないかと考えられる。他の星で食糧を確保しながら、擬態・寄生をしつつ。すべては自然の摂理なのである――。

−−余談−−
 星を喰らい、また旅だってゆくところは、クロノ・トリガーのラヴォスに酷似しているような気がする。しかし、崩壊した未来を救うために歴史を変えてしまうのは、喜ぶべきことなのであろうか? 崩壊した未来でも、そこに住む生命は存在した。世界が崩壊を免れることによって、存在するはずだった生命が消えてしまうという事態も充分起こりうるはずだ。クロノ・トリガーの世界で、過去を操作することにより現在および未来を変えてしまうことは、突き詰めれば主人公たちのエゴ以外のなにものでもないのではなかろうか。それが善であるか否かは、私にはわからない。


REPORTED by Tao Nakasa 著作日1997.8月頃
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