灼熱の砂漠の真ん中に雄々しくそびえるフィガロ城。 昼下がりの強い陽射しが、石造りの壁をじりじりと焦がす。 男――ロックは扉を開けた瞬間、その眩しさに目を細めた。降りそそぐ陽射しの中を数歩あゆみ、誰に言うともなく口を開く。 「…あちー。なんで主通路がおもいっきり外にあるんだよ…」 リターナーとフィガロのパイプ役であるロックは、今回もバナンからの密書を持ってエドガーの元を訪れていたのだった。つい今しがたエドガーに書簡を渡し終え、玉座の間から出てきたところなのだ。 もちろん砂漠の中央に位置するからには、それなりの空調設備は整っている。実際、玉座の間や屋内通路は冷房が効いており、快適な空間が保たれている。
ロックは、さもこの城の従来の住人であるかのような顔で歩きながら、いつも暑さをしのいでいる場所へと向かっていった。
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「あ、ロックさま」 扉を開けようとしたとたん名を呼ばれ、ロックは振り向く。 そこには知的で思慮深そうな女性が微笑んでいた。 「えっと…」 「アイリーンです、司書の」 彼女は、ロックが向かおうとしていた図書室の管理をしている女性だった。 「あぁ、アイリーン。“さま”はやめてくれよ。俺には似合わないしさ」 ロックが苦笑いすると、彼女ははにかみながら首を振る。 「いえ。陛下の御友人でいらっしゃるんですから、当然のことですよ」 「そうか〜? 門番はオマエ呼ばわりだったけどなぁ…」 「門番? 赤茶色の髪の子じゃありませんでした?」 眉をひそめながら問いかける彼女に、ロックは頭を掻きながら答える。 「あぁ…そうだったかな?」 「ランディったら…。あ、すみません。あの子…ランディっていうんですけど、エドガー様に憧れて入隊してきたもんですから、陛下と懇意にされてるロックさまが羨ましいんですよ、きっと」 彼女の言葉に、ロックは意外そうな顔をした。 「へぇ…あいつも男に好かれることなんてあるんだ…」 「まぁ。フィガロの民はみな陛下を敬愛しておりますよ?」 小さく微笑みながら、彼女は図書室へと通ずる扉を開けた。 フィガロ王国立図書館――。
フィガロ城の一室に設けられている施設であるが、その蔵書は世界にも類を見ないほど豊富なものであった。その膨大な蔵書は独自の十進分類によって区分され、管理されている。高名な学者も、時々この施設を利用しに訪れるらしい。 「ロックさまは結構ここの蔵書は読破されましたよね。特に…自然科学や歴史、産業…言語学も熱心に読まれてましたね」
手持ちぶさたな時間をこの図書室で過ごすことが多くなっていたロックは、自分が興味のある書物を片っ端から読みあさっていたのだった。 「ロックさまって、見かけによらず努力家なんですね」
「しかし、芸術や文学には疎いがな」
「俺は現実主義者だから、実益の薄いものは切り捨てるんだよ」
「なんだよ、それ」
「まぁ、それより…」
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一番奥の本棚へ向かうと、エドガーはその裏側に手を差し込み何やらスイッチらしきものを操作した。程なくして、右側の壁のあたりからゴゴゴゴゴ…と重い音が響きわたる。エドガーは音のした方へと歩み寄り、壁にそっと手を当てた。すると壁が大きくスライドし、隠し通路がその姿をあらわしたのだった。 その一連の出来事に、ロックはきらきらと目を輝かせる。 「すっげ…こんな仕掛けがあったんだ…」 「この城にはまだまだ秘密がたくさんあるぞ?」 通路の階段をくだり突き当たった扉を、エドガーは先程アイリーンから預かった鍵束で開けた。 「うわ――…」
エドガーは、入り口付近に備え付けてあったランプにそっと灯をともす。
思えば自分も成長したもんだ、とロックは感慨にふける。
読み書きができないことは、別に恥ずかしいことではない。
しかし、教養はロックの世界を広げてくれた。 それはまさしく、レイチェルの存在のおかげであった。
自分が見知っている現象を、論理的に説明されることの爽快感。
この世にひそむ不思議をひとつ、またひとつと垣間みてゆく度に、ロックの知的好奇心はどんどんと膨れ上がっていった。そして、いまだ誰も到達したことのない何らかの秘密を、いつしか己自身で解明してみたいとさえ思うようになっていたのだ。 ロックに新たな世界を与えてくれた、レイチェル。
――さまよえる魂を呼び戻す、伝説の秘宝―― 今のロックが書物を読みあさるのは、なんとかしてその手がかりを得ようとしているという意味合いも多分に含まれていた。
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「しかしロック…。おまえな、ニブいにも程があるぞ」 「んぁ?」 ふいに声をかけられ、ロックは首をひねってチラリとエドガーを見やる。 エドガーは書架の隅にある小さな机に腰かけ、腕組みをしながらロックを眺めていた。 「アイリーンだよ。彼女、あきらかにおまえに気があるじゃないか」 「はぁっ?」 思ってもいなかった言葉に、ロックは素っ頓狂な声をあげる。 「そ…そうかぁ? 全然わからなかったけど…」 困ったように頭をかくロックに、エドガーは「救いようがないな」とでも言いたげな表情でため息をつく。 「まったく、おまえという奴は…。思わせぶりな態度を取ってるわりに本人には自覚がないだなんて、俺よりタチが悪いぞ?」 「なんだよ…嫉妬か、みっともねぇ」 ロックの言葉に、エドガーの動きが一瞬止まる。 「ほーぉ。おまえからそんなセリフが聞けるとは思わなかったよ」 ロックにしてみれば、エドガーに保護責任がある“フィガロ国民である彼女”を惑わせた自分を憎んでいるのか、という意味合いで言ったつもりであった。しかし、エドガーはそうは取らなかったようである。
エドガーは、ロックの背後にゆっくりと歩み寄った。
なにをどう間違えばそういう意味に取れるのかわからないが、自分の言動には、他人の誤解をまねく部分が多々あるらしい。
例えこじつけだとしても、本人が少しでもそう感じていなければ、主張を口に出すことはできないのである。 そうすると、エドガーは…!? 一連の状況を総合して導き出した推論が、にわかには信じられないものであったことに、ひそかに狼狽えるロックであった――。
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「あ、おかえりなさいませ」 隠し書庫から戻ってきたふたりを、アイリーンは笑顔で出迎える。 「ずいぶんと長かったんですね?」 「はは、ちょっと夢中になってしまってな」 にこやかに答えるエドガーに、彼女は微笑みながらうなづく。 「そうですね…読書に熱中してしまうと、時間はあっという間に過ぎてしまいますよね」 アイリーンはエドガーが返却した鍵束を所定の場所に戻した。 「あら、ロックさま。お顔が赤くありませんか?」
ふと、ロックは思い出したように振り返った。
「…すまなかったね、レディ。ちょっとロックを再教育してくるから」
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自分、いちおう図書館司書の資格も持ってるんですが、
学んだことはもうサッパリ忘れました…。
持っててもあんまし意味のない資格だけどな…。
本とかも普段ぜんっぜん読まないし。新聞と漫画しか。
それなのに(エセだけど)小説書いてるって何なんでしょう。
自分のコトながら、理解に苦しみます…。
文学とか芸術に疎いのも、ロックじゃなくて自分です。
…まぁ、自然科学とか歴史・産業にも疎いんですが。
また、作中のいろいろな設定は中瑳のでっちあげです。
公式設定ではないので、信用しないように!
(いや、公式設定ももちろん使ってるんですけどね)