茜色に燃える地平線を、セリスはただ見つめていた。 向かい風に煽られて頬をたたく前髪を、無造作にかきあげる。 耳元では、風がごうごうと唸り声をあげている。 飛空挺、ファルコン号。
セリスは、その甲板にひとりたたずんでいた。
焼けこげた、一面の森。
そして、遙かかなたにかすむ“がれきの塔”――。 以前、そのふもとを通過したことがある。
なにが“裁き”よ。
もうみんな死んでしまったかと思っていた。
でも、生きてた。
…あなたも、生きてるよね?
セリスは、懐から一枚の布きれを取りだした。
――生きていると、信じている。
(泣かない!あの人に逢うまでは、決して泣かない!!) 自分に言い聞かせ、セリスはぎゅっと目をつぶる。
「セリス」
「…いいかげんにしないと、斬るわよ?」
「で、なんなのよ。何か用?」
それなら、早く引っ込んでちょうだい。
セリスは心の中で悪態をつく。 「君をなぐさめてあげようと思ってね」
私は、あんたなんかに屈しない。 「…気丈だな」
吸い込まれてしまいそうな、エメラルドの瞳。
だめだ、かなわない。
本能的に敗北感を感じ、セリスは唇をかみしめてそっぽを向いた。
「ロックは、元気だったよ」
突然に、エドガーがぽつりと告げた。
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あまりにもさらりと聞かされた、衝撃の告白。 一瞬ののち、セリスががばりと振り向く。 「“元気だった”って…。逢ったの、ロックに!?」
ロックに逢っていた!?
「…目的が違ったから、別れたんだ」
「俺にとっては“国”、ロックにとっては…わかるだろ?」
セリスはハッと息をのんだ。 ふたりにとって大事なもの。
――――“レイチェル”!!
世界が崩壊し“大切なもの”の安否がしれない状態。それを確認しにゆきたいという欲求を否定することなど、できようはずもない。 セリス自身でさえ、そうなのだ。 シドの死亡と孤独感に絶望し、みづから命を絶とうとさえしたセリス。
目的が違えば、別れは必然となる。 セリスだって、まっすぐロックの元へと駆けつけたいが、その所在がわからなければどうしようもない。その手がかりを得るために、旅をしているのだ。
「…ごめんなさい…」
「ロックは、無事…」
「でも、あいつのことだからな。悪運だけは強い。殺したって死にやしないさ」
ファルコンは、いつのまにか元帝国領の上空にさしかかっていた。 シドのいかだで流れ着いた海岸。
あのときは見上げることしかできなかったけれど、今なら、乗り込もうと思えばそれも可能になったのだ。仲間の、セッツァーの翼のおかげで。 セリスは、甲板から大地を見下ろした。
セリスは、はっとした。 そうだ。今思えばあれは、かつてベクタがあった所にそびえている。
その事実に、セリスは愕然とする。 ひどい。ひどすぎる。
セリスは、甲板の手すりをきつく握りしめた。
加速したファルコンは、夕闇に染まる大地に突き刺さる塔をかすめ、再び地平の彼方へと駆け抜けていった――。
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